近年、企業は「人が財産、人が最大の差別化の要因」であるとして、「教育」を大きな戦略的位置付けにしているところが多くなりました。しかし大切なのは、その教育が本当に「実践できる人材」の育成に繋がっているのかという点です。
誤った方法で「教育」を導入してしまうと、経費だけかけて何の効果も得られないものになります。研修をすればそれが社員教育であると勘違いし、外部の研修専門機関がもっているプログラムを高い費用を払ってそのまま利用するなどがその例です。なぜこのようなことが起きるかといえば、一つには、まさに「教育」の在り方を深く考えていないこと、もう一つは、外部の研修専門機関が経営実践のノウハウまで蓄積しているという誤解があるからではないかと考えられます。
本当の実行力を兼ね備えた次世代リーダーを育成していくためには、自社の実態に合わせてどのような教育が必要なのか真剣に考えてみることが必要です。
これは絶対と思う教育テーマは自分たちでプログラムを考える
階層別研修はノウハウ教育が多い
企業の研修では、新入社員研修、係長昇職時研修、課長昇職時研修のように階層別に行われていることがほとんどではないでしょうか。こういった研修では、キャリアの転機にスムースに次のステップへの導入を図るために個人をサポートしていくもので、その研修プログラムは、「なぜ」よりも「どのように」したらいいかを教える要素が大きいといえるでしょう。「課長になったらリーダーシップは○○のように行いましょう」、「部下は○○と言って指導しましょう」、「業績管理は○○のように」といった具合です。育成教育の一つとして重要ではありますが、自分で考え、学び、実行に移せる力を養うという要素はカバーできてはいないのです。
自社に本当に必要な次世代リーダーの教育テーマは自分たちで作り上げる
本当に自社の実情にあわせて次世代リーダーを育成していくのであれば、自前で教育をしていくことを考えてはいかがでしょうか。研修プログラムを自分たちで徹底的に考え抜き、講師も自社で用意するのです。研修のプロではない社員が講師として話すのは並大抵のことではなく、上手く話せないことが多いかもしれません。しかし、経験によって技術は向上させることができますし、なにより、「人に教える」ということは本人が最も勉強し、成長できる機会となります。組織全体の力を底上げする絶好のチャンスともいえます。
安易なビジネススクール経営科目の導入だけは避けよう
自前の教育プログラムを作る際に、会社によっては、ビジネススクールのようなカリキュラムを取り入れることもありますが、ビジネススクールの経営科目だけを勉強しても、実践ではほとんど使えないので注意が必要です。こうした科目を勉強すること大いにしてもらいたいことですが、実践に現場で使えるようになるために必要なのは、「ハート」と「戦略思考」を同時に教えることです。
その「ハート」の部分は、昔のように気合と根性だけの「ハート」ではなく、「なぜなのか?」「なぜ今なのか?」そして、「私たちはなぜやるのか?」という明確な理念を持ち得る、熱い「ハート」を注入することが必要なのです。
そのためには、カイシャで起きている出来事を「洞察」して仮説を持つ力が求められます。こうした力を養うプログラムは、現在の企業教育ではなかなか手をつけられていません。折角、社内大学などをつくって教育をしても、ビジネススクールでやっていることを真似ただけでは競争力のある社員を育成することはできないのです。
現場で使えるようになるための次世代リーダー教育を目指そう
あるアパレル会社の経営者は「マーケッターは必要ない。彼らは、理論では素晴らしい武装をしてくるが、マーチャンダイジング(品揃え)やマーケティングばかり強調していて、そこに売る人たち(人間)を見ていない。店員がお客様に対して服を売るストーリーを語れるようにすることの重要性が全くわかっていない。だから、商品が売れるようにはならないのだ。」と指摘しています。同時に、彼は「商品は売れて初めておカネになるのであって、仕入れ段階での分析は一向におカネにはならないものだ。結果がでなければ意味はない。」とも言っています。
教育も同じです。その教育を受けた人間が、教えられたことを実際の仕事に使えるようになって初めて意味のある教育といえます。教育で求められているものは、社員の内に秘められている真価をどれだけ引き出せるかということであり、いかに、彼らの力を実践に活かせるように気付かせる「場」を作れるかだと、私は考えています。
研修や教育を外部機関に頼っていると、差別化した社員の育成が難しいことは明白です。全てを自前の研修プログラムでやる必要はありませんが、「ここは絶対当社にとって必要」というプログラムは自分達で考え、作り上げてください。
実践から学ぶことで組織を強くする「改革プロジェクト」という方法
わたしたちが事業改革を行なうときに結成するタスクフォースチームは、改革の戦略策定と実行を同時に行う部隊であり、生の経営教育を行なう「場」にもなっています。座学だけの教育プログラムよりも、現実に戦略を展開し、実践しながらタスクフォースでメンバー同士が省察しあう「場」を創り、人材育成を図ることができます。
その省察しあう「場」では次のような事を行っています。
可能であれば泊りがけで定期的にその時間を作るとよいでしょう。仕事の環境から一度離れ、普段とは違う場所で集中的に行った方が、出てくるアウトプットの成果はよいからです。改革や再生のプロジェクトを通して、「理念」と「戦略」と「実践」に触れ、メンバー自身が成長していく機会となっていきます。こういった活動を継続していくことで、実践から学びながら組織を強くする循環ができ、その組織に真の価値を生み出すことにつながるといえます。
まとめ
今回は「実行に移せる」次世代リーダーの育成について、自前で考える教育方法について述べました。
近年、企業内における教育の重要性が見直されていますが、その教育への取り組みが知識やノウハウの伝授にとどまり、経営人材の育成につながっていないことが多いように思います。まずは、教育の「在り方」を見直し、今回紹介した方法などを用いて人材育成を行ってみてはいかがでしょうか。