レジリエンスにより左右される企業と個人の成長力

昨今、世界で注目を集めている概念でもある「レジリエンス」。レジリエンスとは、「外部から力を加えられた物質が元の状態に戻る力」「人が困難から立ち直る力」などのことを指します。いつ大混乱が起きてもおかしくない今の世の中において、レジリエンスを向上させ、どのような状況に陥っても再起する力が私たちビジネスパーソンにも求められています。そのためには、どのような考え方が必要なのでしょうか。

ここでは、『レジリエンス 復活力(著:アンドリュー・ゾッリ)』をもとに、レジリエンスを向上させるために必要な考えかた・行動指針について考えていきたいと思います。

この記事は以下に当てはまる方におすすめです。

✅ 危機に遭遇してもチームをリードしていく方法を知りたい方
✅ 優れた適応能力を身につけたい方
✅ 困難な状況に合っても自社の強みを見出したい経営者

私生活、ビジネス両方において平穏さを求める方は多いでしょう。なぜなら私たち人間は変化を恐れるからです。しかし、昨今頻発する災害や事故などにより、昨日までの平穏な日常が突如壊されてしまう可能性もゼロではありません。

「危機」とも呼べる状況下に陥ったとき、慌てふためくことなく乗り越えるためには「レジリエンス」すなわち単なる強さだけではなく、「柔軟さ」「立ち直る力」「回復力」が求められます。

レジリエンスの概念がビジネスシーンにおいてどのような作用をもたらすのかを解説していきます。

レジリエンスとは

レジリエンス 復活力

「レジリエンス」という用語はさまざまな分野で少しづつ違った意味で使われます。
1つ目はシステムが自然災害の際にどのくらいのスピードで回復できるかを指します。
2つ目は、人のトラウマに対処する個人の能力について用いられています。

ここでは変化に直面した際の継続性と回復というレジリエンスの2つの本質的な側面に基礎をおいて、全体を通して生態学と社会学の両面からレジリエンスを検証していきます。

新型コロナウイルス感染症が流行したことを受け、ここ2年間で私たちの生活はめまぐるしく変化しました。ビジネスシーンにおいては、業績が低迷している企業もある一方で、柔軟に対応したことで業績が向上した企業も存在します。

新型コロナウイルス感染症に限らず、大震災のように予測不能な状態に陥ることは十分にありえます。そのような状況下でも、慌てふためくことなく対応する力、そのことをうたった概念こそが「レジリエンス」なのです。

レジリエンスを強化するための方法

レジリエンス 復活力

「レジリエンスがビジネスシーンにおいて必要な概念だと理解しても、どのような方法で回復力や柔軟性を培えばいいのかわからない」と感じた方もいるでしょう。アンドリュー・ゾッリは次のような方法でレジリエンスを強化できることを示唆しています。

思い込みや物事への依存を解放し、柔軟な発想をする

私たち人間は、「思い込み」により新しく発見する機会を逸失してしまうときがあります。

農業を例に挙げてみましょう。今や、水で農作物を育てる「水耕栽培」や、古着をリサイクルしたポリエステル繊維を主体とした「ポリエステル栽培」など、土以外での栽培方法が行われています。土を耕した後に種を植えて、土にまみれながら野菜を育てていた一昔前までの農業のスタイルとは一変したスタイルで農作物が育てられているのです。

「水耕栽培」や「ポリエステル栽培」は場所を選ばずできるという利点だけではなく、自然災害に影響を受けにくいという利点も備えています。それにより、安定的に供給できるという需要家にも優しい取り組みといえるでしょう。

しかし、農作物は水、ポリエステルで育つと思っていた方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。農作物には土と水、そして肥料が必要だと思い込んでいる方が多かったに違いありません。「水耕栽培」や「ポリエステル栽培」は、思い込みを取り払ったところに生まれた生産方法であったといえます。

アンドリュー・ゾッリはレジリエンスを強化する方法として「システムの根源にある物質への要求を「脱集中化」もしくは「分離」すること、つまり特定の仕事を完成するための資源を多様化することが挙げられる。」(同書、P107)と述べています。

先ほど例に挙げた農業に当てはめてみると、農作物が育つために必要な資源を土にこだわらず、水、ポリエステルに着目したことが、農業における柔軟性を見出すことにつながったと捉えられます。そして、システムを再構築したことにより、自然環境に大きく影響されることなく、農作物を供給できるという強みも手に入れることができました。

このように、レジリエンスを強化するためには、思い込みや物事への依存を解放することが求められます。

レジリエンスと失敗は無縁ではない

ボードゲームの失敗

ビジネスにおいて、失敗はできるだけ避けたいと感じるマイナス要素の1つでもあります。

しかし、本書では、レジリエンスと失敗は無縁でないことを受け入れる重要性を指摘しています。「じつのところ、レジリエンスの多くの形態は、一定の頻度での適度な失敗を必要としている。それによって、システムは解放され、資源の一部を再構築できるからだ。(同書、P19)と記しているように、ある程度の失敗の試行は全体的に崩壊することを避けると同時に、一部の機能を再構築する働きがあるというのです。

新型コロナウイルス感染症の流行下では、非常事態宣言により消費者の自宅待機が余儀なくされた結果、経済活動は鈍化し、どの業種にも少なからず影響を与えました。また、どうにか需要と供給のバランスを崩さないようにと、新しい取り組みに挑戦したとしても、スムーズにうまく行った企業ばかりとは限らないでしょう。

しかし、失敗という状況を受け止め、柔軟な対応を行なった企業には大きく成長しているところもあります。経済活動が鈍化した中で、いかにして需要を獲得するか、失敗も許容しながら、新しい視点で模索できる企業こそ、レジリエンスが強化できている企業といえます。

個人のレジリエンス強化は集団のレジリエンス強化へとつながる

夕陽と馬

では、個人を主体にレジリエンスを強化することには、組織においてどのようなメリットがあるのでしょうか。

個人のレジリエンスを強化することは、集団のレジリエンスを強化することへとつながることを前提とし、心の回復がいかにビジネスシーンにいい影響をもたらすのか解説していきたいと思います。

自己肯定感の向上・上昇志向の向上が期待できる

自己肯定感の向上・上昇志向の向上

仕事をしていると失敗は避けられません。失敗したとき「また上司に怒られる」と思う方もいれば「同じ失敗を繰り返さないように対策を練っておこう」と考える方もいます。はたして、どちらが理想のビジネスパーソンといえるでしょうか。

後者のほうが望ましいことは一目瞭然でしょう。しかし、柔軟性や立ち直る力が欠如していると、どうしても前者の考えが脳裏をよぎってしまいます。さらに自信喪失へとつながり、自己肯定感が低下してしまうことも避けられません。しまいには仕事の効率も低下し、「自分にこの仕事は適しているのだろうか」など、思い悩んでしまうケースもあるでしょう。

同じ失敗や悲しみを経験しても、自己回復力の優れた人と、そうではない人がいるのはなぜでしょうか?

自分自身のレジリエンスを強化することができている人は、「自己回復力」(逆境に立ち向かい、乗り越え、立ち直る能力)と「自己統制力」(将来の目標のために喜びを先延ばしできる能力)が優れています。

強靭と呼ばれる性質を持つ人はこの3つの信念が土台になっています。

  • 人生に有意義な目的を見出せるという信念
  • 自分が周囲の状況や出来事に貢献できるという信念
  • 経験は良かれ、悪しかれ、学習と成長につながるという信念

また、アンドリュー・ゾッリは、悲しみは乗り越えようとしての乗り越えられるものではなく、人々には先天的に乗り越える力が備わっているということも示唆しています。

例えば、次のような事例が挙げられています。

第二次世界大戦後には、両親を亡くし、身寄りのないたくさんの孤児がいました。彼らは劣悪な環境の中で幼少期を過ごし、養子として新しい両親の元に引き取られていきました。孤児達に共通していたのはひどい栄養失調と愛情不足でした。

大人になってからは不安と屈辱の中で悲しみに苛まれ生きている元孤児と、新しい環境で自分の世界を作り、人生を生き生きと謳歌している元孤児とに分かれました。

それはなぜなのか。
個人のレジリエンスを決定づけているものは何か?本書は深く研究した内容をまとめています。

「彼らが言うところの「レジリエント」とは、トラウマに直面しても揺るぎない目的意識をもち、人生を見いだし、前に進む勢いをもった人々を指している。」(同書、P165)と述べた上で、「彼らは適応し、ときには別離をきっかけに成長するなど、前向きに向かって進んでいた。しかも、悲しみの段階が顕著に見られることもなければ、悲しみを乗り越える作業を行わないからといって、フロイト派が予測したような結果に結びつくこともなかった。要するに、彼らは立ち直ったのである。」(同書、P166)と続けて述べています。

つまり、私たち人間は、仕事上の失敗で落ち込み、悲しんだとしても、自然に回復する力を持っています。失敗した事実に重きに置いてしまうと、それ以上の挑戦をできなくなるどころか、本来持っている力さえ発揮することができなくなるでしょう。

そのような状況に陥ると自己肯定感が低下するどころか、「キャリアを伸ばしたい」という上昇志向すら停止してしまう恐れがあります。すると、チーム全体の士気にも影響を及ぼし始め、ひいては組織全体の動きも鈍くなり、社員も企業も成長する機会を喪失してしまいかねません。

しかし、目の前の状況にいっときはたじろいだとしても、自分や仲間を信じて再び立ち上がり、歩み始められる底力が私たちにはあるのです。そしてその歩んだ経験は、必ず自己肯定感を高めてくれます。

逆境に強いビジネスパーソンを目指すためにも、レジリエンスの強化に努めることが大切です。

レジリエンスの習慣化が実現することで未来を切り拓くことができる

回復力の強い人

レジリエンスという概念が世界に広まりつつある背景には、変化に対応できず、現状を悲観する方が増えていることが関係していることが予想できます。しかし、人々が生活を送る上で、大小あっても、変化はつきものであり、避けられるものではありません。

しかし、いかなる状況に陥っても「柔軟性」と「立ち直る力」が求められます。さらに、レジリエンスが習慣化していると、常に新しいことにチャレンジすることへの恐れもなくなり、成長する機会を創出することも可能です。

危機管理能力があり、未来を切り拓くことを恐れないビジネスパーソンへと成長するためにも、レジリエンスの習慣化の実現を目指してみましょう。

  
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