コミュニティ・オブ・プラクティス(以下、実践コミュニティ)とは、「欧米で注目されているナレッジ・マネジメントのコンセプト」です。
今、世の中はデジタル化がものすごいスピードで進んでいますが、デジタルで情報処理の効率を上げただけでは、人間の持つ知恵を内面化し、組織の競争優位にまで高めることはできません。半年前の知識はあっという間に陳腐化してしまう時代です。わたしたちビジネスパーソンは、常に学び合い、成長していくことが求められています。「実践コミュニティ」は、あるテーマに関する関心や課題、志を共有しながら知識や技術を高め合う「場」を意味しており、企業の新たな価値創造を生み出すために、今、再び見直されてきています。
こちらの記事は以下に当てはまる方におすすめです。
✅ 会社をもっと発展させたい経営者
✅ 組織の中で自分の地位を確立させたい方
✅ 社員の自己成長を促し、活性化した組織を創りたいリーダー
コミュニティ活動は昔から行われてきたことで、新しいものではありません。しかし近年では、「この古来からある仕組みに、ビジネスにおける新しく中枢的な役割を担わせ」(引用:『コミュニティ・オブ・プラクティス』(著:エティエンヌ・ウェンガー&リチャード・マクダーモット&ウィリアム・M・スナイダー、翔泳社、以下同様)P35)、学習し続ける組織を創ることが注目されています。
本書を読み解くことで、眠っている組織の可能性に気づくことができるでしょう。
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コミュニティ・オブ・プラクティス(実践コミュニティ)とは何か
「実践コミュニティ(コミュニティ・オブ・プラクティス)とは、あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」(同書、P33)活動を指しています。
コミュニティとプラクティスの定義
欧米と日本では、コミュニティという言葉に対する認識が少し異なります。
ここでいうコミュニティとは、「官僚主義でないこと、たとえば指揮命令系統によらない、非定型で、組織の壁を自由に越えること、自発的で、生き生きしていること、前例を壊す」(同書、P13)集団活動を意味しています。
プラクティスという言葉も、多面的な意味で用いられますが、ここでは、「活動することにより確立された知識や実践例」(同書、P14)の意で使っています。
実践コミュニティの意義
実践コミュニティでは、共通の興味や対象を持つ個人が集まり、一緒の時間を過ごしながらお互いが持つ情報を交換し合います。
人は、理解し合える他者と出会い、集団に属することで充足感を得、そして集団は同じ問題や目的に向かって協力するようになるのです。
そして、彼らが協力した結果、新たな知識や見解が生まれます。ここで得られる知識や見解は、コミュニティが続く限り日々新しいものに更新されるので、組織は常に最新の技術や情報を取り入れることができます。
こうしたコミュニティづくりに取り組むことで、社員の間の「信頼関係」も構築され、一人ひとりが持っている貴重な知識や情報が次第に組織に生かされるようになります。企業にとって、大切な資源創出と活動的な財産を蓄えてくれるといった意味で、非常に有益です。
また、実践コミュニティは、「社員の意識を変え、行動を変え、結果として、「社員にとっての仕事の意味」を再定義することを目的とする、極めて長期的な取り組み」(同書、P21)でもあります。そして、私たちが集団で活動を行う上で、指針となる新しい集団の形も示してくれています。ただ束ねられた集合体ではなく、コミュニティにとっても、個人にとっても技術進歩や効率化の実現、将来への展望といった、成長できる要素を多大に有した取り組みといえます。
こうしたコミュニティによって培われる知識は、単なる知識とは違い、経験に即して獲得されたものなので、実用的で流動的です。コミュニティが影響を及ぼす分野が拡大すればするほど、組織にとってもコミュニティの重要度は増していきます。
実践コミュニティがもつ課題
実践コミュニティには、メンバーの創造的なエネルギーが自発的に湧き起こってくることがとても重要です。実践コミュニティは無理やり作っても失敗に終わります。必要なのは、人々が集まろうとする原動力を引き出すことです。
実践コミュニティにおいてもっとも優先されるべきなのは、有機的な成長や活気を促すことなのです。
それでは、どのように設計すれば、コミュニティが活性化するのでしょうか?
実践コミュニティを育成するための7原則
実践コミュニティには、自発性が前提条件であるにもかかわらず、設計が必要という矛盾した一面があります。
この矛盾を解決するために、活動を設計するには原則があります。『コミュニティ・オブ・プラクティス』では、実践コミュニティを育成するための7原則が述べられています。
一. 進化を前提とした設計を行う
二. 内部と外部それぞれの視点を取り入れる
三. さまざまなレベルの参加を奨励する
四. 公と私それぞれのコミュニティ空間を作る
五. 価値に焦点を当てる
六. 親近感と刺激とを組み合わせる
七. コミュニティのリズムを生み出す
(同書、P95)
これらの原則を知ることで、柔軟で臨機応変な設計が可能となります。7原則の具体的な内容は、以下のとおりです。
一.進化を前提とした設計を行う
設計は、コミュニティを無から作り上げるものではなく、発展を導くものでなければなりません。なぜならコミュニティは、メンバーが持っている関心や人脈を活用して発展するからです。
また、コミュニティは新しい要素を吸収することで発展していくので、最初から多くの要素を詰め込む必要はありません。
ですから、有益なコミュニティを作るためには、構造を押しつけるのではなく、コミュニティの発展に手を貸すという手法をとらなければなりません。
構造形成に直接関与するのではなく、間接的に刺激を与える作用を行うべきなのです。
二.内部と外部それぞれの視点を取り入れる
経験のあるメンバーをコミュニティに取り込む上で、部内者の存在が必要となります。部内者ならば、コミュニティに必要な知識の領域や、メンバー、さらにメンバー同士の人間関係などを把握しているからです。
そしてまた、部外者の視点も必要不可欠です。
内部の視点だけではコミュニティを設計する経験が不足していることが多く、部外者から改良すべきところや活用できていない能力を指摘してもらうことで、メンバーがコミュニティの可能性を理解し、より優れたものにできるでしょう。
三.さまざまなレベルの参加を奨励する
コミュニティへ参加するメンバーには通常、3つのレベルがあります。
第一は、コミュニティの中心的存在となる、“コア・グループ”です。通常人数は、コミュニティ全体の10~15%ほどの小さなグループです。彼らは、コミュニティに積極的に参加して、成熟したコミュニティの中で指導的な役割を担ったり、メンバーを結びつけるコーディネーターの補佐を行います。
第二は、“アクティブグループ”です。このグループは、コア・グループの次のレベルに位置します。比較的規模は小さく、人数でいえばコミュニティの15~20%を占めますが、コア・グループほど積極的ではありません。
第三は、コミュニティの大部分を占める“周辺メンバー”です。彼らは、コアグループや、アクティブグループの交流を見守り、めったに参加はしません。
コミュニティのメンバーは、これら3つのレベルを行き来します。いろいろなメンバーが、自分たちの関心専門に合わせて流動的な境域を超えて、中心に向かってかなり深く関与したり、中心から外れたりしてよいのです。
時には、メンバーでない外部にいる人々でさえ、一時的に関与しても構いません。
四.公と私それぞれのコミュニティ空間を作る
「活力に満ちた実践コミュニティでは、地域コミュニティと同じように、メンバーが集う公共空間と私的空間の両方で、さまざまな交流が行われて」います。(引用:同書、P102)
メンバーは公共イベントを通じて、自分がコミュニティの一員であることを自覚し、自分以外のメンバーに関することやコミュニティの情報を知ることができます。
それだけでなく、優れたコミュニティの公共イベントには、参加者が私的なネットワークを作るための時間が設けられています。
参加者が顔見知りになると、さまざまな目的を持って公共イベントに参加するようになるので、公的空間がより有意義なものになります。
つまり、私的空間を利用して公的空間を豊かなものにし、公共空間を利用して私的空間が強化されているのです。
このようにコミュニティの公的側面と私的側面は相互に関係しているので、それぞれの空間の行き来が可能になるよう設計することが必要となります。
五.価値に焦点を当てる
「コミュニティが繁栄するのは、組織や、メンバーが、属するチーム、そしてメンバー自身に、価値をもたらすから」です。(引用: 同書、P104)
ただし、コミュニティにどういった価値があるのかはすぐにわかりにくく、さらに価値が生じる源は変化していきます。
ですから、価値を最初から限定してしまうのではなく、価値の発現を促し、獲得する方法をとって、価値が現れるのを待つしかありません。ですから、実践コミュニティは長期的に行う必要があります。コミュニティに価値が出て効果をもたらすまで、メンバーの関心が失われないよう、メンバーに価値を意識させ続ける仕掛けも必要となってきます。価値を意識することは、関心をなくさないだけではなく、コミュニティの真の価値を特定する際に役立ちます。
六.親近感と刺激とを組み合わせる
コミュニティが成熟すると、定期的にイベントや会合が開催されます。
人は習慣化したものに安心感を覚えます。親近感が湧くと、率直な話し合いができるようになります。しかし、親近感だけでは新しい思考や活動はなかなか生まれません。
コミュニティを成功させるためには新しい発想や人材が不可欠なので、活気にあふれたイベントが必要となってきます。活気のあるイベントによってコミュニティは活性化し、メンバーは刺激を共有することでコミュニティに関心を寄せます。
なじみの深いイベントと刺激的なイベントを組み合わせることで、活気のある実践コミュニティを設計することができるのです。
七.コミュニティのリズムを生み出す
ほとんどの人には生活にリズムがあります。リズムがあると安心感が得られるからです。活気のあるコミュニティにも同様に、リズムが必要です。
そのリズムは、イベントによってコミュニティにもたらされます。
コミュニティに必要なリズムはコミュニティの発達段階によって異なりますので、その都度、ふさわしいリズムを模索していかなければなりません。
まとめ
実践コミュニティは、組織にとって多くの恩恵をもたらします。
コミュニティの価値に気づいた組織はコミュニティをつくろうと思っていただけたかもしれません。
ですが、実践コミュニティはメンバーの創造性を尊重することによって成長していきますので、強制的に作り上げると失敗してしまいます。
活気あるコミュニティを目指すためには、あらかじめ目標を設定したり、適合性を求め過ぎてはいけないのです。必要なのは、メンバーが関心を持ってコミュニティに深く関われるようにサポートをすることです。
自発性を損なわない設計が、コミュニティをより価値のある集団へと発展させることができるのです。
実践コミュニティには無限の可能性が秘められています。個と組織の成長のために、自分の関心がある分野について、何名かを募る、あるいはすでにできているコミュニティに顔を出してみる等して、一歩踏み込んで学びを進めてみませんか?『コミュニティ・オブ・プラクティス』を参考に、実践コミュニティを設計してみてください。