志が進化の原動力となり、熟考が競争優位性を更新し続ける

目まぐるしく変化する時代の中で、市場における競争優位性を常に生み出すためには、組織進化が必要不可欠です。しかし、組織進化とうたいながらも、現時点でのニーズにのみ対応する戦略を講じる企業が多く、その結果、時代の流れとともに淘汰されていく傾向にあります。

未来においても市場での競争優位性を保ち続けるための進化デザイン戦略の構築の方法について解説します。

□本書をとくにおすすめしたい方

 ✅ 企業経営に携わっている

 ✅ 組織進化の方法で模索している

 ✅ 企業経営に限界を感じている

『進化デザイン戦略』(以下「本書」)第7章では、本書最終章の締めくくりとして、進化デザイン戦略を構築する上で重要なポイントをお伝えしています。

進化デザイン戦略における4つの課題を挙げ、組織進化へと導くために必要な経営者の考え方や、経営理念について実例をもとに説いています。

また、不確実な未来に備えるために、個人として、そして組織としても意識改革が求められる理由についても解説しています。

環境に適応できないジレンマを解決するための4つの課題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

企業存続のためには、現状の環境に適応させることは必要不可欠です。しかし、現状だけを集中的に見つめ、戦略を策定するだけでは、将来にわたって市場における競争優位性を生み出すことは難しく、その会社の将来性は望めません。

これらの状況を回避し、環境と適応して進化する組織を作っていくためには、次の4つの課題をクリアすることが重要だと考えています。

  1. 戦略コミットメントの限界を受け入れる
  2. 短期および中長期という時間の二項対立を乗り越える
  3. 深く考え、素早く実践する
  4. 自律的に生き、学習することで進化させる

これらの課題をクリアすることで、多くの経営者が抱える「戦略をコミットメントしているのに結果が出せない」「企業努力しているのになかなか成長できない」といったジレンマを解消できるだけではなく、不確実な未来に適応し、自社の持続可能な戦略の策定を実現できるのです。

戦略コミットメントよりも適応力が勝る時代

analysis

市場調査を経て策定した戦略。相当な時間と労力をかけて策定するからこそ、着実にコミットメントし、結果を残そうとしてしまいがちです。

ところが、当初は順調に物事が進んだとしても、時間の経過とともに状況が悪化するという事態に陥る経営者も少なくありません。その際、「戦略が間違っていたのだろうか?」「当社には何が不足しているのか?」とさまざまな考えが脳裏をよぎるでしょう。

もちろん、企業経営では戦略をコミットメントすることが大切です。しかし、戦略を着実にコミットメントしようとすればするほど、不確実性を取り込める余地が少なくなってしまい、未来への課題ともいえる「リスク」を受け止めることなく、事業を進めてしまいます。

「リスク」と聞くと、一見マイナスな要素に捉えられがちですが、実はリスクを真摯に捉え、対策を講じるからこそ予期せぬ未来への適応力が備わのです。

戦略コミットメントの限界を知り、リスクを取り込むことができれば、これまで時間が経過するたびに直面していた「結果が出ない」というジレンマを解消できるでしょう。

既存事業と新規事業のバランスが取れると将来への不安が払拭される

夕日を逆光に立つ女性

いまは需要が高い事業でも、環境の変化によって需要が減少する可能性は十分にあります。その場面に直面したときに、いかに工夫し、思考を凝らすかで生き残れるかが決まると意識している方もいるでしょう。

しかし、時代が移り変わったとしても競争優位性を保ち続けている企業は、日頃から既存事業と新規事業のバランスをうまく取りながら経営を行っているという特徴があります。

例えば、多くの方がご存知であるGoogleは、市場における自社の立ち位置を瞬時に察知し、IoTの時代にさらに進化するためには、現在の能力だけでは乗り切ることができないと判断。そして2015年8月に、新事業となるAlphabetという新しい公開持ち株会社を設立しました。

これは、経営トップが現在の組織運営を継続しているだけではいつか限界が訪れると感じ、何よりも未来への備えを意識した行動といえます。

経営者の多くが、経営がうまく軌道に乗らなくなってようやく「いまから何をしたら企業成長を果たせるだろうか」と真剣に考え始めますが、それでは短期的利益は望めても長期的利益は望めません。イノベーションのジレンマも解消できずに悩み続けることになるでしょう。

将来への不安を払拭するためには、常日頃から既存事業と新規事業のバランスをとりながら経営の舵取りをすることが大切です。

進化デザイン戦略で結果を残すために必要な経営者の心構え

両手を伸ばす男性

企業の成長は、人々の力、すなわち社員の考え方が大いに影響しています。当然ながら、本書に記している方法で戦略を策定しても、社員の思考がついていかないことには効果は発揮しないでしょう。組織を引っ張っていくうえで、経営者に求められる心得について解説します。

1.現在を否定することが未来への進化の一歩となると心得る

利益を得ることは、気持ちにゆとりが生まれるというメリットがある反面、未来のことに意識を向ける機会を喪失するというデメリットも生み出すことがあります。

時間の経過とともに、類似製品は次から次へと誕生するため、よほど製品に特徴がないかぎり、息が長い製品になることは難しいのが今のビジネスです。いつの時代も競争優位性を保ち続けるためには、現在の姿を否定しながら、未来への準備をすることが求められるでしょう。

現在の姿を否定することで、さらに高みを目指しながら経済活動を行えます。さらには、自分自身のスキルアップにもつながり、企業全体の意識改革も図れます。

2.あいまいさが成長の糧になると心得る

事業をスタートさせるためには、その分野について熟知し、市場のニーズもがっちり抑えておく必要があると思われがちです。しかし、日本にはその概念を覆し、急成長した企業があります。本書でも紹介しているとおり、ヤマト運輸の元社長であった小倉昌男氏は、組織にあいまいさを認め、配達員を通じて顧客ニーズの進化を感知しました。

さらに、顧客分析と同時に、組織全体の自律性を高め、組織学習の能力を高める役割も果たしたのです。この実例のように、あいまいさが企業の成長を促進するケースもあります。

また、あいまいさを成長の糧にしたとあるIT企業は、社外から新しい取締役会を就任させ、新規事業を積極的に取り組み、業績不振を乗り越えました。このように外部組織での環境変化の経験を生かし、経営の方針を確立する方法もあります。いずれにしても、あいまいさを許容し、外部と結合しながら新たな連関を生み出すことが進化には求められます。

ただし、企業において注力されている「中核事業」と「新規事業」を比較すると、新たな事業は重要度が低いことから、計画を立てても実行されずに終了してしまうケースが多々あります。ESG投資が広がり持続的成長が投資指標にあげられるようになったとはいえ、株式公開している会社では収益を生み出している事業に注力させようとする圧力はとても大きいものがあります。

3.問題点を深く掘り起こし、スピーディーに実践すると心得る

消費者動向の流れが変化し、自社の製品が売れなくなったとき、みなさんはできるだけ早く売上高をもとに戻すための方法を考え出すでしょう。

その結果、不利な条件での受注や値下げを行ってしまいがちですが、それでは短期的な売上増加は期待できても、中長期的な成長は見込めません。

それどころか、一旦不利な環境をつくってしまうと、それ以上のステータスへ持っていくために、相当な労力を要してしまいます。

では、市場において需要が減少したとき、どのように対応することが望ましいのでしょうか。

このような状況に陥ったときは、すぐに結論を下すのではなく、なぜこのような事態が起きているのか、その問題に対して深く考えることが求められます。

いま起きている問題のプラスとマイナスの局面をしっかり見つめ直す機会を創出し、組織としての強みや可能性を見出す契機とするのです。

こうした活動を継続することで、現状を打破するだけではなく、新事業展開の可能性も生み出せます。

ただし、ただ深く考えるだけでは事業再生は図れません。じっくり考え、決まったことはスピーディーに実践するバランスが組織進化には必要です。

中核事業と新規事業を相互作用させて成長させるためには、組織内であいまいさを許容し、未だかつて経験したことない状況に取り組み、学習する姿勢を持ち続けることが鍵となるでしょう。

4.制度に縛られすぎないようにと心得る

社内制度は、経済活動の活性化、人材育成などを目的に導入されます。しかし、制度づくりに縛られすぎるあまり、中身を軽視してしまうと、内容が薄いものとなり、目的を果たせません。

また、組織が硬直化すると、取締役といった経営陣は全く機能せず、ロボットと同様、感情を喪失していることとなんら変わりなくなってしまいます。

私は、この状況を危惧しており、制度を絶対視すると経済活動を低下させる原因になると考えています。

もちろん、少子高齢化による働き手不足を解消するために効率よく働いてくれるロボットは日本経済において必要です。ところが、ロボットは、過去や今起きていることの分析学習はできても、未来に向けて環境の変化に淘汰されないケイパビリティは高められません。

それに対し、コミュニケーションを図ることができ、意味や大義を認識できる人間は、自らのケイパビリティやスキルを高めることができるだけではなく、環境の変化の感知や、組織間の結合を生み出し、経済活動を活性化することができます。

このように、組織のケイパビリティを高めて経済活動を活性化させると同時に、進化させていくためには、制度に縛られすぎないこと、そして自律的なエコシステムが必要といえます。

5.「志」は社員一人ひとりの原動力となり組織進化を促すと心得る

組織が進化するためには、目先のことだけではなく、不確実な未来への備えを織り込みながら戦略を策定していくことが必要です。

現在の顧客動向や市場における自社の立ち位置だけを見ていては、持続的に成長できる戦略は策定できないでしょう。

「現在」だけではなく、「将来」にわたって事業を発展させていくためには、社員一人ひとりの志、すなわちパーパスと一致させることが欠かせません。

「志」がなければ、組織や個人のケイパビリティを高める意欲は喪失し、組織進化は望めないからです。

「もっと顧客に満足してもらえるサービスを提供したい」「自社をもっと世にPRしたい」といった、社員一人ひとりの「志」が組織進化における最も大きな原動力になります。

志は時代の流れに関係なく組織進化には必要不可欠なのです。志を高め、わたしたちが行っている「仕事の意味」について経営者は常に考えながらマネジメントを行い、社員一人ひとりに浸透させることが組織進化の促進へとつながるでしょう。

まとめ

『進化デザイン戦略』最終章である第7章では、進化デザインを構築する上でぶつかる4つの課題を軸に、組織進化に欠かせない要素について説明しました。
不確実な未来に備え、適応力のある組織へと進化するためには、人々の「志」が原動力となることも最後に述べています。

志があるから、進化を求め、現状に満足することなく、未来へ意識を向けられるのです。

市場において競争優位性を保ち続けるためには、自社の課題を深く考え抜くことが重要です。深く考えることで、自社の強みを再点検し、進化させる方策をスピーディーに採ることができます。それが中長期にわたり競争優位性を保つ秘訣なのです。

さらに、自律を高めつつ、時には組織外と結合することで、自社の可能性の範囲を拡げることも進化には重要な要素です。

経営者・経営チームの方々には、自分自身の志(パーパス)を問い直し、ビジネス・エコシステムを形成しながら成長をスピードアップさせ、未来への道筋を見いだすことが求められています。

  
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