「ノウハウはあるのに業績が伸び悩んでいる」「優秀な社員が揃っているにもかかわらず、成長していない」という企業は、実行力が不足しているのかもしれません。実際、知識の有無ではなく、実行できるかどうかが企業の成長を左右するということに同意される方も多いのではないでしょうか。では、なぜわたしたちは、なかなか知識を行動に活かせないのでしょうか。
ここでは、得た知識を活かし、実行するためには何が必要なのかについて、考えてみたいと思います。
こちらの記事は以下に当てはまる方におすすめです。
✅ さらなる企業成長を望んでいる方
✅ 部下に対し、決めたことをスピーディーに実行に移してもらいたいと考えている方
✅ 社員教育に携わっている方
実行力不全を生み出す原因
日本では、毎年2,500冊あまりのビジネス関連の書籍が新刊として出版されています。(参考 : 総務省統計局 「書籍新刊点数と平均価格」)
ノウハウ本であったり、海外の有名大学教授による新たなコンセプトを紹介するものであったり、その内容は様々です。しかし、一見、新規性に富んでいるようにみえるものも、よく読んでみると、実は昔から言い古されてきたきた内容の焼き直しのようなものだったりします。それでも、「話題の書」が売れるのは、ビジネスに効く効果的な方法がいまだ見つかっていないからではないでしょうか。
そう聞くと、ハッとした方もいるのではないでしょうか。企業成長が伸び悩んでいるのには、すべきことはわかっているのに、実際に行動できていないことが影響しているのかもしれません。
なぜわたしたちは、実際に行動に移すことがこんなに難しいのでしょうか。
新しいことに挑戦するのは、とても勇気のいることです。とくに、ビジネスとなると「失敗は許されない」というプレッシャーから無難な選択をすることの方が多いでしょう。
「前例や歴史は、知識を行動や意思決定に活かす邪魔をする。それどころか、学ぶ能力まで奪ってしまう。」と『実行力不全』(ジェフリー・フェファー+ロバート・サットン著・ランダムハウス講談社、以下同様、P89)では指摘されています。
人間は成功体験が増えれば増えるほど、過去の経験をもとに行動しようとします。「いままでこれで成功してきたから、この方法は正しい」と思い込み、前例や歴史にしがみつこうとするのです。
確かに、この方法であれば安心感は得られるでしょう。窮地に追い込まれることも避けられます。しかし、失敗するというリスクは避けられるものの、企業成長にとって要となる新しいアイディアを創出する機会は得られません。
では、なぜ「変化しなければならない」と感じながらも過去にこだわる企業が多いのでしょうか。
「社会心理学者によると、人はあいまいさを嫌う。明確な答えがほしい。そこで認識したことを凍結しようとする」(同書、P99)のだそうです。つまり、過去にこだわるのには、新しい知識を実行することによって成功する確証が持てないからこそ、認識を凍結しようとしてしまうのです。
人は、次のような状況に陥ったとき、認識の回路を閉鎖する傾向にあるといいます。
① 締め切りに追われる、決定を迫られるなど、時間のプレッシャーを感じるとき。
② 新しい情報を処理できないほど疲れたとき。
③ 肉体的な苦痛や恐怖があって、情報を処理できないとき。
④ 知識を凍結したことで、上司などに評価されたとき。
(同書、P99)
「プレッシャー」「恐怖心」などのネガティブな感情や、「評価」が影響しているということです。
恐怖心や不信感は企業成長の弊害となる
新しい挑戦に踏み出せるかどうかは、社員同士の信頼関係も関係しています。
昭和の時代を経験してきた岩盤世代の中には、部下に恐怖心で押さえつけ、言うことを忠実に実行させる上司こそ「敏腕」だと考えている人も未だにいるようですが、今、組織運営には、メンバー同士の「心理的安全性」を担保して、それぞれが考えていることを活発に表明してもらい、チームの力を高めることが求められています。
組織に属している以上、上下関係は避けられないものではありますが、圧力で部下を抑えつけてしまうと、部下は本領発揮できずに、仕事へのやりがいすら見い出せなくなってしまいます。
『実行力不全』の著者も「恐怖心は知識と行動のギャップを生む。人が進んで知識を行動に移したり、新しい情報を取り入れてあえて危険を犯したりするためには、罰せられる恐れがなく、それが認められるという保証が必要である。」(同書,P120)と述べています。
恐怖心を与えることで知識を得ても行動できない環境下では、社員が成長する機会を喪失すると同時に、社内全体が停滞した空気に陥ってしまうことは避けられません。
また、得た知識を活かすことができなければ、社員教育として行われるセミナーや勉強会などは、意味をなすことはないでしょう。
管理職は、「社員が成長しない」「会社がマンネリ化している」と嘆く前に、社員を全面的に信頼し、成長する機会を与えているか、恐怖心や不信感を追放できているかを改めて考える必要がありそうです。
知識と行動のギャップを生み出す要因を認識することで実行力を強める
「知識を活かして新しい挑戦をすることは理解しているが、失敗するリスクを回避したほうがいいのではないか」と考える方も少なくないでしょう。
しかしその意識が、まさに実行力不全を生み出しているのです。
もし、実際行動に移すことができたとしたら、さらに知識は増え、多くのことを学べるはずです。実行できる組織を作るために、リーダーが認識しておくべきポイントについて考えたいと思います。
情報量の多さではなく行動力が組織を活性化させる
情報が溢れる昨今、多くの知識を得ることはたやすいですが、その知識を活かし行動することこそ成長に向けて必要です。
『実行力不全』の「行動のための八つのガイドライン」を元にして、実際に行動を起こせる組織を作るためにマネージャーが認識しておくべき項目を次のようにあげてみました。
① 大事なのはパーパス・価値観・哲学である
② 行動することや教えることで知識は身につくと認識する
③ すばらしい計画やコンセプトより「行動」することが大事という組織風土をつくる
④ 行動すれば間違いも起こるということを受け入れる
⑤リスクへの恐怖心を捨てる
⑥「動機づけ」と「社内競争」を取り違えないように気をつける
⑦評価基準はシンプルに
⑧ メンバーが行動を起こせないのはリーダーの問題であると心得る
(同書、第8章 より作成)
以下に簡単に説明していきます。
① 大事なのはパーパス・価値観・哲学である
成功している企業を参考にして、行動やテクニックばかりに注目していても自分たちの会社に応用して実行に移せることはほとんどないでしょう。成功事例からは「なぜ、その会社はその方法や行動を選んだのか」という価値観や哲学を学ぶべきなのです。「パーパス」、すなわち企業の存在価値をしっかりもった組織は、その目的に向かって過去を乗り越えていくこともできるでしょう。この大転換時代に取り残されないためには、これまでよかったという前例主義に踏みとどまっているわけにはいきません。リーダーは、今一度組織のパーパスや価値観を確認し、メンバーとともに共有し、行動していく必要があります。
② 行動することや教えることで知識は身につくと認識する
今やインターネットを検索すれば様々な知識が瞬時で得られます。行動を通じて学習するというのは大変な労力と時間がかかるとも言えます。しかし、行動し、成功と失敗を繰り返すことにより、物事への本質的理解が格段に深まることでしょう。また、人に教える・伝えることが最も実践に活かせる知識が身につくということは、みなさんも実感されているはずです。自らが行動する姿を見せる、あるいはメンバー同士で教え合う場をつくるなどして、知識を本当の意味で身につけていくことが大切です。
③ すばらしい計画やコンセプトより「行動」することが大事という組織風土を作る
日本企業は一般的に計画に重きを置く傾向が強く、計画や会議、意思決定が行動の代わりになりがちです。しかし、計画したように物事が起きるケースは少なく、実践しないことにはなかなか物事が前進しません。もし、なんとなく停滞している、活力がない組織だと感じたら、「行動してから計画を立てる」という流れを作っていくこともリーダーには求められています。
④ 行動すれば間違いも起こるということを受け入れる
学習には失敗がつきものであることを理解できると、社員が失敗したとしても寛容に受け入れられるようになります。そのような組織風土が組織内に浸透すると、社員は行動を起こしてチャレンジできるようになります。
⑤リスクへの恐怖心を捨てる
だれもが失敗は怖いものです。しかし、そのリスクをあらかじめ認識し対処法を考えておくことによって、恐怖心を抑えることができるでしょう。リスクも想定しながらも、力強く事業を推進していくことがVUCAの時代のリーダーには求められているのです。
⑥「動機づけ」と「社内競争」を取り違えないように気をつける
社内競争が激化すると、「知識の伝達不足になる」「信頼感が薄れる」といったように社内全体に悪影響を及ぼします。「社内に緊張感を持たせたい」という「動機づけ」と「社内競争」を混同させないことが大切です。目標を共有し、ともに協力しながら事業を推進していくマネジメントが求められています。
⑦評価基準はシンプルに
評価制度は企業にとって重要なコンテンツですが、評価の項目が多い方がパフォーマンスを高められるだろうという錯覚を起こしがちです。売上、コスト、収益の数字などはすぐにコンピューターから取り出せるので、多くの項目を評価したい誘惑に駆られますが、やたらに多くの項目があると評価の焦点がぼやけてしまいます。また、結果ばかりでなくプロセスへの認識も大事です。部下の行動を評価する基準をシンプルに、明確に打ち出すことが行動する組織になるために大切です。
⑦ メンバーが行動を起こせないのはリーダーの問題だと心得る
行動を起こせない組織であれば、行動を起こす方法をリーダーが見つけなければなりません。「あいつは動かない」などと不満を言っているリーダーこそが問題なのです。行動につなげる仕組みをつくることがリーダーの役割です。社員に対して、行動を重視することや、新しいことに試み、そこから学ぶ姿勢を評価することによって、行動重視の文化が社内全体に浸透していきます。リーダーが組織みんなが行動できる環境を作り出していかなければならないのです。
まとめ
多くの情報が溢れる昨今、新しい知識を得る機会は多数存在します。しかし、知識を得たままで終わってしまい、実際に行動に起こせないのであれば、得た知識は何も変化をもたらしません。恐怖心やプレッシャーという気持ちを追放して、行動したときにこそ、ようやく得た知識は生きてくるのです。
知識を行動に変えることの重要性や行動を起こすためのガイドラインは、「社内のマンネリ化を脱却したい」「社員の育て方に悩んでいる」という方に役に立つかもしれません。一つでも、二つでも、日々の仕事に活かしてみてください。