組織改革を始めるときに抑えなければならない5つのポイント

 組織改革の入口に立ったときに改革者が知っておくべき「改革」の設定の仕方と留意点について解説していきます事業や組織を改革したいとき、その第一歩を間違えてしまうと改革は失敗し、その修正に膨大なエネルギーと時間を要することになってしまいます。ここでは改革の第一歩を間違えないための要点を具体的に紹介していきます。

〇こういった方におすすめ

✓停滞している事業を再興させたい

✓膨大なエネルギーと時間をかけて改革に取り組んだが、失敗してしまったことがある

✓タスクフォースメンバーの選定方法と基準に悩んでいる

 

〇このコラムで分かること

✓組織改革を推進する前に考えなければならないポイント

✓推進者として改革に取り組むときに留意しなければならないこと

✓どのような人物をタスクフォースのメンバーにするべきか

ポイント1:前準備に時間を割く  

 経営戦略や事業改革の教科書には、改革のスタートはトップによる強いリーダーシップが必要で、すぐさま組織横断的なメンバーからなるタスクフォースチームを結成するように書かれていることが多いと思います。しかし、タスクフォースチームを作りさえすれば改革が進むというものではなく、大抵は最初から躓いてしまう場合がとても多いのが現実です。改革の入り口では、まず組織の特性を十分に理解する時間をとることが必要です。スピードは命ですが、この準備時間を飛ばしてしまうと実効ある改革はできない可能性が高いでしょう。では、どのような準備が必要なのか見ていくことにしましょう。

今の状況を客観的に認識する

 改革や再生が必要となっている組織は、

  • 外部要因の変化を捉えられなかった
  • 日々のルーティンに追われ、新しいものを生み出す余力がない

のどちらかです。その実態は、内部の余計な仕事や活動でがんじがらめになっていたり、目的や背景を明確にされないまま単純に仕事を‟こなして”いるだけの状態になっています。このような組織には、次のような行動パターンが現れます。

 こうした活動を、「○○プロジェクト」と称する場合もあります。

 改革チームは活動が始まると「何故(Why)このプロジェクトが立ち上がったのか?」と誰も疑うことなく、ひたすら「どうしたら上手く(How)できるのか」に集中していきます。こういった活動をわたしたちは「沈みゆくタイタニック号の演奏会」と呼んでいます。デッキは大忙しで、やり甲斐のある華やかな演奏会が開催されている一方、実は船体が氷山に衝突してしまって危機が迫っているのです。こうしたプロジェクトは、船の沈没を防ぐというそもそもの課題を忘れ、自分達のやりたいことに没頭している状態です。

 例えば、企画書を‟書くこと”自体に多くの時間をかけたり、商品のスペックを複雑にし過ぎて顧客のニーズとかけ離れたものを作ってしまったりなど、目の前の仕事で大忙しで、仕事をやっている気になっている状態です。また他人の企画やプレゼンを細かくこねくり回し、部下に何度も意味のないやり直しを指示することもそうだと言えるでしょう。このままでは、組織全体として忙しいのに現状維持に終始するため徐々にメンバーのモティベーションが落ちていきます。そのため、本当に改革の入り口に立ちたいのであれば、まず自分の組織がこのような状態に陥っていないかを客観的に確認する必要があります。

「人」の特性や行動様式の把握を始める

 上記のような状況に陥ってしまった組織では、改革や再生に取り組む際に大上段に構えて改革の必要性を説いても、効果は少ないと考えるべきでしょう。そもそも改革や事業再生は生きた血が通っている「人」がやるものであり、機械やおカネがやるものではありません。改革を本当に成功させたいのであれば、改革の処方箋やタスクフォースといった言葉を思い浮かべる前に、組織の中にいる「人」の特性や行動傾向を十分に熟知することから始めなければなりません

 改革は皆の進むべき方向を一致させ、そのベクトルを太くさせることが必要です。そのため、強いリーダーシップが必要不可欠です。しかし、日本企業の組織ではトップ自身が強いリーダーシップを持って改革に臨むところは少なく、実際の改革や再生の現場に誰かをアサインして報告を受けることがほとんどです。また、熱いミドルアップもほとんどありません。しかし、熱いミドルが全く存在しないかといえばそうではありません。よく見れば組織の中には必ず、熱い信念を持った人がいるはずです。

 改革や再生を始めようとする場合、そうした「割れない卵」を探し出し、次のような役回りの人たちを集めてくることが必要になります。

 ただし、必ずしも全ての人たちを初から揃える必要はありません

 改革や再生を進めていくと、次第に賛同する人と抵抗する人、そして様子を見ている人たちに分かれてきます。改革によって自分が不利となる人は、まず抵抗者になると考えてよいでしょう。抵抗する人たちを最初から説得することに力を注ぐよりも、賛同する仲間を増やすことに集中しましょうフォーマル、インフォーマルのあらゆる機会を使ってコミュニケーションを図っていきます。

 改革活動の必要性を話すと、大抵の若い人たちはよく理解し、積極的に参加します。逆に経験豊富な年配の人たちが最初から賛同を示さない場合、彼らを説得することは難しいと考えた方がよいでしょう。なぜなら、自分の会社人生のゴールを見定めている人たちが、再度チャレンジの舞台に上がろうと、苦労を買って出るようなことは確率からいって非常に低いからです。

 ある中堅企業の経営トップは、まず30歳代の係長クラスをリーダーにさせ、若手中心の改革をスタートさせました。まず彼らに改革の意識を浸透させ、その間、課長などのミドルには日常の仕事に専念させました。なぜなら、この会社では課長は40歳後半から50歳代と古株が多く、最初の段階から改革の意識を浸透させようとしてしまうと抵抗や遅れが生じることが予測できたからです。そして、3ヵ月後に本格的な改革を全社的にスタートさせました。

 もし、ミドル層の中で改革に賛同する意思のある人がいれば、最初から説得なしで参加してくるはずです。この世代で挑戦する人たちの力は誰よりも強く、改革の大きな力になってくれるので、とても大切な存在です。メンバー一人ひとりが会社の発展や改革に対してどのような考えを持っているのかを注意深く観察しなければなりません

危機意識を醸成する

 改革や再生ではこれまでやってこなかった未開拓の領域に踏み込むよりも、現状を維持するほうが危険である」という事実を認識することが重要となります。改革や再生を成功させるには、まず不愉快な現実(業績の落ち込み・営業収入のダウン・シェアダウン・新しい競合の台頭など)を、冷静に議論できる土壌を整える必要があります。そして、解決すべき課題が、緊急性の高いものであるという切迫感と、これまでの構造を大きく変えなくてはいけないという危機感を共有することが大切です。最初は少ない人数であっても、こうした危機意識の醸成に全力で取り組むのです。

 ミドルであれば、出来るだけトップや経営幹部との意見交換を求め、ミーティングなどを通じて、その必要性を共有していくことが求められます。こうした危機意識を持った中核となるメンバーが揃うまでは、くれぐれも安易に改革をスタートするべきではありません

 こうして危機感が醸成されたら、改革プロジェクトの中心となるタスクフォースチームを結成する準備を具体的に始めていきましょう。

ポイント2:バスに乗せる人を選定する

 タスクフォースチームという改革の「バス」には、トップや経営幹部が乗っていることが大前提です。プロジェクトを推進しながら人を増やしていくことになりますが、まずは中核となるメンバーを選んでいきます。この段階で注意することは、メンバーを不安にする人、怠け癖がある人、相手を尊重できない人といった「腐ったりんご」を絶対に選択してはならないということです。つまり、最初に「バスに乗せる人」を慎重に選ぶのです。

 改革や再生の現場はイノベーションの連続であり、経営環境が悪化していようとそこから抜け出すためには「創造的」な活動が求められます。豊かな創造性を持ち、そして、実行する気概のある「割れていない卵」を探し、改革という「バス」に乗せるのです。バスに乗せる人を間違えると後の段階でムダなエネルギーを要することとなるので十分に留意しなければなりません。

 タスクフォースチームのメンバーを選定するとき、候補者の特性を次の項目に従ってレーダーチャートに描いてみましょう。

 ①は左脳的要素から始まり、②③と進むに従って次第に右脳的要素となります。残念ながら全ての項目を100%備えた人材に出会ったことはありませんが、この特性は改革当初と改革の途中、そして最終の段階で、同一人物でも違う結果が現れるはずです。

 では、バスに乗せたい人の選出基準を考えてみましょう。まず登用すべきは「①意思決定力の強さ」と「⑤実践力の強さ」が高く、「②論理的な思考の高さ」も兼ね備えた人物です。厳しい経営環境でも論理的に分析する力を持ち、さらに行動するための意思決定ができ、そして同時に実践力を伴ったいわば戦略的改革リーダーです。

 次に「⑤実践力の強さ」「⑥熱き志の強さ」「⑦覚悟の出来る度合い」の3項目を備えた人物を探すべきです。

 なぜ論理的思考や管理能力よりも、これらの右脳的要素を優先するかというと、改革や再生は試行錯誤の連続であり、タフな精神と、繰り返し実践しながら突き進む力が何よりも必要だからです。論理的思考や意思決定はリーダーがある程度行うことができます。また、論理性と意思決定能力は学ぶことが比較的容易であるのに対し、熱き志や覚悟は個人の気質に依存する部分であるため、こうした気概を持った人物を探す必要があるのです。

 一方、バスに乗せたくない人を考えてみましょう。抵抗勢力になり易いのは、「②論理的な思考の高さ」「③管理能力の高さ」の項目だけが高い人たちです。この人たちは、論理的思考を備え、よく勉強をしているため、知識としてマネジメントを理解しています。しかし、改革が思うように進まない状況になると論理的な分析を始めてしまい、一向に前進しなくなる傾向にあります。

 このタイプの人は若い頃から分析することが仕事であることを繰り返しているので、決して自分では手を汚さない「評論家」になってしまう可能性があります。改革の現場は、知識を応用して実践をする場です。しかし、このタイプの人たちは「知識に実践を合わせようとする」ので、合わないものを否定してしまいます。創造と破壊の連続である改革活動では過去の知識ではわからないことも数多く発生します。自分の中で辞書をつくってしまうと、その辞書にないものには挑戦できず、視野にも入らなくなってしまうのです。

 このような人たちをバスに乗せてしまうと、改革はとん挫する可能性が高くなるので注意が必要です。ただし、このタイプにも「割れていない卵」は必ずいます改革への実践者になった場合は、⑤⑥⑦の資質をもつ右脳型よりも更に高い論理性を備えているため、とても強い力となってくれるでしょう。

改革や再生プロジェクトでは、「なぜ改革が必要なのか?」という理念を心底理解する人たちを選び出せるかどうかが、改革の成否を分けるといっても過言ではありません。これまで目立たなくても地道に実践をして、成果をあげてきた人たちの中からも必死に探してみてください。仕事振りや言動、そして実践行動を見ることが重要です。本人の文章やパワーポイントの資料の出来不出来で判断することは避けるべきでしょう。

 改革メンバーの年代、性別は各々の組織の経営環境から判断すべきですが、一般的にミドル入社経験5~7年程度の若手の登用が妥当です。若手を投入するのは、今後の幹部候補として修羅場の経験をさせるためです。

タスクフォースチームを立ち上げるときのリーダーの役割

 改革の準備ができたら、いよいよタスクフォースチームを立ち上げ、実際の改革活動に入っていきます。ちなみに、タスクフォースチームの立ち上げから運営にあたっては、リーダーの役割が重要となるのは言うまでもありません。特に、不確定な状況の中でも人の心に訴えながらチームを導いていく力が求められます。つまり、全人格的な要素が必要となるのです。それでは、リーダーは具体的にどう行動すべきでしょうか。

 まず、タスクフォースチームにおける最初のミーティングで、リーダーは次のようなことを明らかにする必要があります。


  1. 「現在我が社は○○のような状況にある。これから新しい時代を築いていくために、今新たな価値を作り出さなければならない。そのために、事業改革プロジェクトを開始し、皆さんに集まってもらった。目標、戦略そしてアクションプランについて、このタスクフォースチームで順次話し合い、決定していく。それと同時に皆さんが改革を現場に浸透させていく役割を担っている。皆さんの参加度合いと理解、そして実践できるかどうかで大きくその成果が異なり、やがては当社の命運を分けることは間違いない」ということを明確にする。
  2. 自分自身もこの活動に全力をあげ、これまでの職業人生を賭けると明言する。

 改革や再生のプロジェクトを通じて、メンバーはリーダーのコミットメントの大切さと、その活動の中で戦略は自分達が作り上げ、行動していくものであるということを学んでいきます。リーダーは「改革」の外枠をしっかり固めながら、内側は徹底してミドルアップで戦略を考えさせ、実践させていくことが重要です。

ポイント3:時間軸を見極める

 改革は半年や1年では終了せず、恐らく3年程度は時間を要すると考えた方がよいでしょう。そして、スタートしてから4カ月~半年の間に人件費や経費等のコストカットが実施できれば利益は上を向いていくはずです。この段階で「改革は成功した」とする経営者や再生コンサルタントは多いですが、改革は緒に就いたばかりであることを認識しなくてはなりません。経営は、利益が持続的に上向かなければ成功とは言えません。持続的な成長を目指すためには、一体何を考えていったらよいのでしょうか。

 短期的な成功に踊らされず、本当の改革を望むのであれば、自分たちの事業が改革や再生のどの段階にあるのか?ということを見極めなければなりません。一般的には、「改革」よりも「再生」の方が緊急度合いは高く、かつ、事業存続の可能性が低いはずです。再生の段階では、残された戦略的な変数(戦略的に大きく変えることのできる組織の余力)少ないでしょう。一方、これから事業が厳しい環境になることが予測される改革の段階ということであれば、緊急度合いが比較的に緩やかであり、打ち手となる戦略的変数は多くなります

緊急度の高い、再生の段階にあるとき 

 もし緊急度の高い再生の段階に入ってしまっていれば、少なくなった戦略的変数を多くしなければなりません。外部環境に対して、組織が大きくなり過ぎてしまっている場合が多いので、まずは組織を「身の丈」にする必要があります。つまり、単にキャッシュアウトを防ぐという観点のみでなく、戦略的な変数を増やすために組織を小さくするのです。例えば、ある事業から撤退する、あるいは、ある仕事を止めて、その力を別の戦略に注ぐことも一つの方法でしょう。

  本来はこのような状態になってしまう前に、新しい取組みを行なったり、新しい事業を創造したりすべきであったのですが、トップをはじめとして全員が「今ある仕事」に集中してしまい、日々のオペレーションに一生懸命になってしまっているのです。20世紀の時代と異なり内需が減少している中で、オペレーションをこなすだけではもはや、事業を成長させることはできません。事業を継続させ、さらに発展させていくためには、改革が必要であることを明確にする必要があります。悠長なことを言っている場合ではないからこそ、ゴールを明確にした中長期的な視点が必要なのです。

 この段階でタスクフォースチームのメンバーは、次のような認識を冷静になって共有することが必要です。


  1. これまで事業を営んできたが、外部環境と内部環境の変化により自分達の事業がミスマッチを起こしてしまっていること(具体的な事例を明示する)。
  2. 業績の低下、顧客の離反、事業成長の鈍化、内部組織力の低下等が見られる。次の時代(一般的に5年後)に向け、戦略を組み立てなければならない時期が来ていること。
  3. 会社には大きな節目がある。危機に陥らないことよりも、こうした危機に気付き、果敢に行動することが必要であること。
  4. 日々のオペレーションだけでは事業が立ち行かなくなる。戦略的な転換が必要であること。

ポイント4:中核となる文化・改革の理念を明確にする

組織は外部環境と適合しているか

 企業を訪問すると、どこの会社にも企業理念が貼られており、「顧客や社会への貢献」「良き企業市民」「○○という使命」というものを目にします。これらには、その企業特有の行動様式があらわれており、集団合議制を大切にする会社なのか、個人プレーを重視する会社なのか、あるいは社会的貢献を第一に考える会社なのかなど、各々の企業の中にDNAとなる「無意識の意識」が形成されています。

 企業理念が企業文化として醸成されて強い組織となり、それが戦略に結びついている場合は、ほとんどの社員は仕事の価値を見出しているでしょう。しかし、改革や再生が必要な企業では、組織文化が外部環境に適応できなくなってしまっている場合がほとんどです。

 もしこのような状況に陥ってしまった場合、文化となっている行動様式を壊さない限り改革は前進しません。行動様式を変えるために、初期の段階で改革や再生プロジェクトを行うと明らかにする必要があるのです。

求められる新しい行動様式

古い行動様式

新しい行動様式

 仕事目線(事務・作業をこなす) 

 → 顧客目線(顧客の立場で考える)      

 自分のやり方でやる 

 → 顧客に本当のサービスを提供する

 逸話や過去から決定する 

 → 目標に忠実となる

 一糸乱れぬ統制 

 → 業績や環境を把握して柔軟に行動

 妥協と調和 

 → アイデアとカイゼンの多様性

 個人を非難 

 → 作業プロセスを見直す

 何も試そうしない 

 → 仮説を持って、試行錯誤する

 現実を振り返らない

 → 実践から学習する

 

 改革を前進させるためには、内向き志向から顧客目線へと意識を変え、ゴールの設定と実行まで責任を持ったチームになるように行動様式を変えることが必要です。行動様式や組織DNAを変えることはそう容易い事ではありませんが、これを無理やり変えていくのが改革や再生の取組みです。改革や再生では、キッタハッタの手法が重視されていて、中核となる文化や行動様式を変えていくことに焦点があてられることは少ないですが、自分たちの行動様式の課題を認識していくことが本当はとても重要なのです。

「改革の理念(ビジョン)」を明確にする

 改革の入り口に立つトップは、なぜ改革が必要なのか、その事実を説明し、タスクフォースチームのメンバーに対して、「改革の理念」をわかりやすく明文化するよう指示しなければなりません。理念とは、改革活動そのものを表していると理解すべきです。改革を成し遂げる原動力は、論理よりも人間の深いところに内在する情緒です。自分がなぜそのように行動をするのか、実際は説明できないことが多いでしょう。しかし、正しい方向だと感じるから、その行動を選択するのです。ビジョンとは、実はこうした情緒的なものをサポートするものです。改革であろうと、通常の仕事であろうと、ビジネスにおいて目標は絶対的な存在ですが、その目標に向かって進んでいくためにはエネルギーを強化させるきっかけを生じさせ、これまでにはできないと思っていたことを成し遂げるためのビジョンが必要となります。

 よいビジョンには、次の要素が含まれています。

    • なぜ変革が必要なのかがはっきりしている
  • 何を変えるのかがはっきりとしている
  • 組織の目指す将来の姿が思い描けるように表現されている
  • 居心地のいい日常業務から脱却したくなるくらいに人を惹きつける理念となっている
  • 従業員だけでなく、その他のステークホルダーにも語りかけている
  • 現実的かつ達成可能な目標で構成されている
  • 変革の主な成功要因を特定している

 ビジョンが出来上がったら、額にしまっておくのではなく、機会ある毎にメンバーや組織全体に伝えなければなりません更にビジョンをわかりやすく一言で表す工夫も必要です。例えば、「これからはMIS(マーケティング、イノベーション、スピード)で進もう」とか、「地域に繁栄する事業を創る」というような標語を考えてみます。

改革のゴールを明確にする

 改革のゴールとして明確にすべきものに以下の二つがあります。

  • 「改革の理念」
  • 「目標数字」

 「改革の理念」が重要なのは前述の通りです。そして、「目標数字」についてですが、この数字の取扱いには注意が必要です。毎年、予算と現実の差が大きいことに慣れっこになっていたり、数字が低下すると売上増にだけ望みをつないだりする企業も多いですが、数字の奥に隠された本当の意味を理解しないと目標もわからなくなってしまいます。目標となる数字の背景をしっかり捉えるようにしましょう。「こうなるから、このような数字となる」というように数字を数字としてだけ捉えるのではなく、「このようにやれば、こうなる」という表現ができるようにすることが必要です。改革のゴールは長い道のりで、5年を見越す必要があるかもしれません。ですが、忍耐強く毎年の目標数字を明確にしましょう。その一歩として、まずは当面の3カ月、6ヶ月の数字を決めます

 そして、それを達成するためにはどう実践しなければならないかを決めてください。その際、その背景に必ずビジョンを持たせ、人々のハートに訴えられて、実践行動へと駆り立てる力があるかどうかを意識してください。時が経ち実際に3カ月の数字が出たら、正しいか誤りかで分析するのではなく、結果となった出来事を突き詰めて仮説を立てましょう。和の集合ではなく差の集合と考えたときに、見えてきたマイナス要因が更なる改革や再生のポイントになっていくのです。 

ポイント5:事前に改革を妨げる障害を取除く

障害となるものは何かを見極める

 改革や再生には様々な障害が立ちはだかることになります。その内、最も厄介なものは内部の抵抗です。前述したように、組織では行動様式やDNAと呼ばれる文化が時代にそぐわなくなっているにも関わらず、無意識にこれにしがみ付いている人たちが大勢います。抵抗勢力を完全に抑えることはできませんが、態度を決めてない者を一人でも多く改革側に引き入れ、推進力を大きくしていくことが重要です。日本企業では、考え方が違うなどの理由ではレイオフをできないので、この障害となるものの「見極め」には相当なエネルギーを要することもあります。

改革が必要な状況であることを社員に明らかにする

 タスクフォースチームが始動し、改革の理念やゴールが決まった段階で、全社に改革や再生が必要であるということを明らかにすることから始めます。まずは、人々を「目覚めさせる」ことが目的です。その時に表明することは、次の内容です。

 

リーダーの言い回し例


 「私たちは、明日を自ら切り拓く力を自覚して、成長に向けて舵を切る。そのために、改革(再生)という創造活動ができる集団になる。これは単に、古き良き時代に戻って再び繁栄を目指すということではない。新しい時代に向けて、これまでの事業を磨き直すことと、新しい事業を創造することにある。そのために古くなったものは『捨てる』。そして再び、顧客にとって価値のあるものを生み出す集団になる。」「これを聞いて、居心地の悪さを感じる人たちは別の仕事を考えるべきである。もし挑戦するなら、歓迎するのでタスクフォースチームに入って欲しい」


 一人のヒーローがいて、強力なリーダーシップで皆を引っ張っていってくれるということを望んでもそれは幻想に過ぎません。メンバーの一人ひとりが主役となって主体的に行動していかない限り「実」を取ることは困難なのです。改革のタスクフォースチームをつくることでさえ難しい組織が多いのも現実です。しかし、本当に未来に向けて持続的に発展を目指す改革を行いたいのであれば、社員と共に、トップもその必要性を十分認識し、トップが改革の後ろ盾となることが絶対必要となります。間違ってもミドルだけでは立ち上がらないと考えた方がよいでしょう。

 日本企業の良い所は、行動様式が似ている人たちが組織内に多いことです。同じような考えや危機感を抱いている人たちは意外に多いでしょう。もし、改革や再生のスタートしようとするのであれば、あなたのポジションによって改革の出発点を次のように設定するとよいでしょう。


1. 取締役以上のトップであれば

  • トップダウンとミドルアップの融合を図るやり方は、日本企業の改革や再生に最も適する方法である。タスクフォースチームを結成して改革を始めていく
  • 行動様式や文化(DNA)を変えることを、紙面にする
  • タスクフォースを選ぶ(自らが選出した方がよい)
  • 改革の「場」、フィールドを設定する

2. 部長クラスのミドルであれば

  • 社長および取締役の支援を仰ぐ
  • 支援を仰ぐために、ON、OFFを問わずに、簡単な文面を用いて、改革や再生の必要性を訴える
  • 社長、取締役の任期を十分に考慮しながら、小さな成功が任期中にできることを明確にする
  • 戦略等の詳細はタスクフォースでの検討になるが、行動様式や文化(DNA)を変えていくことが重要であることを訴える
  • タスクフォースのメンバーを事前に選定しておいて、トップに相談する
  • フィールドで、社長若しくは取締役の役割(トップのメッセージ)を作成し、表明して貰う

3. 課長クラスであれば

  • まずは、教育の場を設定する。「戦略教育」という場に、選ばれたメンバーを集める
  • 3カ月間を目途に、改革、再生の戦略をメンバーに策定させる
  • 社長、取締役、部長が列席する「答申会」を設定し、策定した戦略を発表する。その場合、単に「こうすればいい」という程度ではなく、しっかりと実践のアクションプランまで設定しておく
  • 社長等のトップから実践へのお墨付きを貰うために、議論を交わす
  • お墨つきを貰えば、社長をトップとするタスクフォースを結成する段取りをとる
  • もしお墨付きが得られなければ、更に修正を行い、再び「答申会」を開催する

まとめ

 今回のコラムでは、組織改革を始めるためには具体的にどのようなことを考え、実行していけばよいのか、大切なスタートアップの時期の留意点を説明しました。すぐに改革に走るのではなく、まずは、皆さんの組織が沈みゆくタイタニック号になっていないか確認をし、組織自体の状況はもちろん、人の行動や特性を把握することから始めてください。その上で、各組織の現状に沿った進むべき方向性が見えてくるかと思います。そして、賛同してくれる人々と共に改革をスタートさせましょう。その改革を行うタスクフォースチームのメンバーにはどのような基準で、どのような人物から構成すべきか、そして、結成した後リーダーが何をすべきか具体的に紹介しました。改革には長い期間を要しますが、改革の目的を見失わず、進めていっていただけたらと思います。

  
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