経営改革を始めるときの重要ポイント ~理念の共有~

  改革プロジェクトを推進する上で、最初に行うことは「理念の共有」です。多くのプロジェクトは「理念の共有」が蔑ろにされており、失敗してしまうケースが多々あります。今回は2つの事例を紹介しながら、いかに「理念の共有」が大切か見てみることにしましょう。

理念が共有されていないと、修復に10倍のエネルギーが必要

 事業を発展させるために、あるいは改革プロジェクトを推進するために最初に行うことは何でしょうか。それは、理念と目標を明確にしたうえで、戦略を構築することです。そして、アクションプランへとつなげるのが一般的です。しかし、多くの企業がこの最初の段階から頓挫してしまうか、中途半端な取組みで終ってしまいます。

 

 この要因は二つあります。まず一つには、戦略を構築するための経験値が不足していることが挙げられます。戦略を組み立てるにはある程度の経験が必要ですが、その経験をもつ人材は少ないため、壁にぶち当たると取り組みがストップしてしまうのです。もう一つは、計画や戦略が理想形で描かれていて、現実の職場で何をしたらいいのか明確になっていないということです。現実は計画から逸脱するのが常にも関わらず、その要素を加味していない戦略がつくられていることによって、現状との乖離が大きくなってしまい、その結果実践できない事態になります。

 理念の共有をないがしろにすると、改革が頓挫しそうになったときにその修復に10倍ものエネルギーが必要になることもあります。中途半端な状態でストップしないためには、しっかりと理念と目標を明確にしたうえで、戦略を構築しなければなりません。次の事例は、理念を明確にしなかったために、改革が失敗してしまった事例です。どのような状況になってしまったのか見ていきましょう。

事例紹介1 日用品メーカーA社の事例

~価格競争に対応した商品リニューアル・プロジェクトを発足しただけなのに、「リストラの一貫?」と社内にうわさが広まった~

 ある日用品の製造メーカーのA社で、低迷した商品の開発をリニューアルするプロジェクトがありました。この商品は、市場競争が厳しくなって価格が下落してしまい、結果として製造段階でコスト比率が高くなってしまったのです。このような状況でやらなければならいことは、高コストになった分を下げること、つまり製造段階での「効率化」と、製品のスペックを見直して「付加価値を創りあげる」ことです。しかし、メンバーのほとんどは「効率化」ばかりに目がいってしまい「今回のプロジェクトはリストラの一貫か?」と、何故か論理が飛躍してしまったのです。そうなると改革どころではなくなり、「これは事業を止めるためのものだ」という風評まで飛び交う始末でした。しかし、実際には、プロジェクトの戦略を見直しても、何処にも事業の縮小や撤退の記述はないし、効率化と付加価値創出の双方の記述がきちんと入っていました。

 このA社の改革プロジェクトは、なぜこのような風評が飛び交うほど、メンバーの議論が飛躍してしまったのでしょうか。それは、このプロジェクトがまず「戦略ありき」で進み、打ち手を組み立てることから始めてしまったからです。A社では、「なぜ」このプロジェクトを行うのかを社内に明らかにしていくことが必要でした。そして、その「なぜ」に対する解は、単に「業務のカイゼンや効率化を図るため」だけではなく、事業の存在意義や理念を明確にしながら行わなければなりません。

 次の事例は、理念の共有を行わなかったがために、プロジェクトを進めていくべきメンバーが不信感を抱き、一向に進展しなかった事例です。それでは、見ていきましょう。

事例紹介2 流通業B社の事例

~時間外勤務削減プロジェクトが、社員の仕事への意欲を失わせた~

 流通業B社では、仕事の効率を上げるため、時間外勤務を減らそうというプロジェクトが立ち上がりました。ところが、このプロジェクトは一向に進展しませんでした。実は、メンバーはこれに無言の抵抗をしていたのです。その理由をメンバーに聞いてみると、「私たちは、残業代が欲しいのではなく、むしろ仕事を一生懸命こなそうとやっているのです。効率化が必要なことは理解しています。しかし、会社側のまず時間外勤務削減ありきの命令口調には抵抗を覚えます。自分達がやっている仕事が、そんなに価値がないものかと思ってしまうからです。このような世の中だから、時間外勤務削減は理解できますが、効率化だけならサービス残業したっていいと思っています。」と訴えました。

 このプロジェクトを推進する上で足りなかったことは、基本的な理念や価値観の共有ができていなかったことです。これは、いわゆる「ビジョン」というものですが、プロジェクトを円滑に進めるためには、それを解り易く示し「何のためにやるのか」を明確にしなければ人はついてきません。このプロジェクトでは、メンバーから話を聞いた後に、「何のためにやるのか」を徹底して噛み砕いて説明することに専念しました。「再び、私たちが輝くために、各自の仕事をつないで、価値を高めよう」という価値観を明確にしたうえで、「それぞれの仕事のつながりを効率的に、そしてよりよくしていこう」という活動に代わっていきました。

 その後、さらに5つの部門が集まるミーティングと、それぞれの部門が個々に活動するワーキンググループに分かれ、1週間単位でPDCAが回りはじめ、次第に競争優位の課題の奥深くまでメンバーは議論するようになっていったのです。

 このように、何かを変えるときには、理念をまずメンバーが共有することが重要です。ここをないがしろにすると、あとでその修復に10倍ものエネルギーが必要になることもあるからです。メンバーが現状をしっかり認識し、納得して改革をスタートさせることが、改革を成功に導く大切なポイントとなるのです。

 実は、理念、つまり「何のためにやるのか?」ということに関しては、比較的反対者が少ないものです。「総論賛成、各論反対」という言葉がありますが、理念は総論なので、比較的誰にでも受け入れやすいといえます。まずは総論で賛成多数という実績を作っておき、戦略を進める段階で抵抗が大きくなったら、また理念の確認に戻り、目的は共有していることを強調しながら改革プロジェクトを推進軌道に戻していくことができます。改革とは、進んだと思ったら壁にぶちあたり、半歩戻り、また一歩進む、そんな繰り返しなのです。改革の理念すなわち目標地点を共有していることで、方向を見失わないで推進していくことができるのです。

まとめ

 今回は、理念の共有がされずに、失敗してしまった事例を2つご紹介しました。そもそも、「ビジョン」という理念を実践することが企業の価値であり、理念は企業活動となって表れるはずです。しかし、改革ありきでスタートしてしまうと、今回紹介した事例のような状況に陥りかねません。改革活動を推進することばかりに目を向けるのではなく、まずは、理念を全員で共有し、ハートで改革の必要性を訴えることから始めてみてください。

  
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