改革を進めたいリーダーが陥る罠の一つに、これまでのやり方を根本から否定して、組織能力をぶち壊してしまうことがあげられます。あなたの組織では、改革プロジェクトと称して、急展開が起きていないでしょうか?組織改革を成功に導くためには、時間をかけるところはしっかり時間をかけることが必要です。では、どんなことに気をつけなければならないのでしょうか。
前例をただ壊すことが改革ではない
改革に臨むリーダーや経営者なら、「前例はない!前例主義を排す」という言葉が脳裏に染み付いているのではないでしょうか。しかし、この行動が極端に出ると、組織を再形成するリスクを計算せず、これまで組織に蓄積している良いものまで壊し、失敗してしましまいます。前例を壊すことが改革だととらえてしまうサラリーマン経営者も多く見受けられます。
例えば、支店長や所長の交代、あるいは社長の交代で組織の方針が大きく変わることがあります。そのとき、組織がその考え方にキャッチアップするために必要な時間やエネルギーを考えずに急転換してしまうと、強みとして持っていた内部資源を壊してしまうことがあります。勝つ仕組みである戦略やこれまで蓄積してきた組織の「知恵」を省みることなく、前例を排すという一列号令で叩き壊しては、せっかくの力が台無しになってしまいます。
あなたの組織では、次のようなことが起きていないでしょうか?
☑ 前任在任中に業績が悪かった場合、その時代を全否定しようとしている
☑ 前任が管理志向だったため、今回は極端な積極策に走り、リスクを考えない投資をしている
☑ 逆に前任が拡大志向だったため、極端に管理志向となり、守勢を固めている
☑ グローバル展開と称した、戦略なき海外への拠点展開を図っている
☑ 最近、営業拠点を移動した (移動先で新しい商圏を見出すという幻想)
このように、極端な方針転換や、理由なき拡大志向は大変危険です。
まず強みとなる組織能力を見極めることが大事
組織変革は、過去の前例をしっかりと抑え、組織の強みを理解した上で行うものであり、単純に前例が悪いといって切り捨てることは危険です。過去から積み重ねてきた自分たちの組織能力は一体何なのか、客観的に捉えることがとても重要になってきます。
1980年代に米ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏は、企業が市場内でよりよいポジションを獲得して競争優位性を見いだす戦略の見方を提唱しました。これを「ポジショニング・ビュー」といいます。ここで指摘されている「立地」について、どれほど良いものを見つけたとしても、その「立地」を確保し、競争相手よりも魅力的な製品・サービスを顧客に提供できなければ企業は生き残れません。また、現在は当時と比べて競争市場の境界が曖昧になってきています。そこで、戦略を考える際にはポジショニング以上に、自社の経営資源(能力)に注目する必要がでてきています。
この経営資源があるからこそ顧客にとって有用なサービスや製品を生み出し、他社と差別化する活動が成立するからです。大まかには自社が有するヒト、モノ、カネ、情報のどこに自社の能力が隠されているかを見極めることが必要です。その中でとりわけ重要なのは、ヒトに依拠した情報であり、暗黙知です。他社との違いに価値があり、模倣困難な部分を見定めてそれを自社の競争力の源泉(コア・コンピタンス)であることを認識することが大切なのです。
競争優位性のある経営資源とは、「半永久的に企業に結びつく有形・無形の資産」であり、機械や資本といった形あるものばかりではなく、人・技術・知識・手続書など知識に関わる要素もあると言われています。みなさんの組織にも、無形の経営資源がきっとあるはずです。