社員が理解して行動してくれる「事業戦略」を立案するときのチェックポイント3選

 立派な事業戦略は立てたものの、現場が回らず上手くいかなかった経験はありませんか?社員が理解してくれて、行動できる、“使える”事業戦略にするために、メンバー自ら創発的に策定する方法をとることがあります。戦略立案者がその戦略の善し悪しを判断する際に、チェックすべきポイントを今回は3つ紹介していきます。ポイントをしっかりと抑えて、「地に足の着いた戦略」を立てていきましょう。

戦略の理論的基礎知識は手に入れておこう

 そもそも、ビジネスでよく使われる言葉である「戦略」とは、何でしょうか。これは、主に欧米のビジネススクール(MBA課程)で育まれてきた学問の世界の「経営戦略論」から始まっています。経営戦略論における著名な先生というと、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授、カナダ・マギル大学のヘンリー・ミンツバーグ教授、オハイオ州立大学のジェイ・バーニー教授、日本では東京理科大学の伊丹敬之教授、一橋大学の野中郁次郎名誉教授や、楠木建教授、沼上幹教授などが有名ですね。こうしたアカデミックの世界の教授による理論は、戦略立案の立場にある人同士の共通言語となっていますから、経営戦略等を立案する立場にあるビジネスパーソンはぜひ一度、アカデミックな「経営戦略論」の書籍を紐解いておくことをお勧めします。例に挙げた経営戦略論の書籍を最後に紹介しておきます。 

 また、書店などで販売している「戦略論の本」は、次の三つの視点に分けて書かれているものがありますから、その違いも理解した上でそれぞれ活用していく必要があります。

 第一は、「学としての戦略論」です。これは、前述のような大学教授や経営コンサルタントが著しているものです。 元来、経営戦略論は実業界と密接に関係して成り立っているので、実業の戦略を分析し、理論が形成されています。

 第二は、「戦略論を使う方法を著したもの」です。これは、戦略論を基に、実業で使えるように解り易くしたもので、ハウツーものが多いものの、戦略論の簡易版といえるでしょう。

 第三は、実際に戦略を組み立てる、「現実の戦略論」です。「学としての戦略論」は静的でこれまでの無数の事例から生み出されたものであるのに対して、「現実の戦略論」は具体的なフレームを使いながら将来を見据えて、仕組みを組み立てるものです。

 こうした書籍からの学習は、戦略立案の立場にある方には必ず行っていただきたいことではありますが、フレームワークを現実の職場にもってきても、ほとんどは使い物になりません。戦略とは、勝つ仕組みであり、勝つためには、「他と何が違うのか?」を明確にしていく必要があります。この独自性は、実際は実践してからでないと解らないことが多く、いくら綺麗な戦略を描いても、現実を照らしたものでなければ、戦略論の会社版になってしまうので注意が必要なのです。

 実際に、職場で行動に移してくれる事業戦略をつくるためには、メンバーがその目標達成に対して、わくわくして取り組めるようにしながら、勝つ仕組みとしての戦略を組み立てていく「創発的な」戦略立案の方法を使ってみるとよいでしょう。

 強力なファシリテーションは必要ですが、実践しながら試行錯誤をして、メンバー同士で戦略を組み立てた方が、より現実的で、社員が行動に移してくれる戦略になるはずです。

 メンバーが創発的につくった事業戦略を、全社員にもよく理解してもらい、行動に移してくれるものになっているかどうかをチェックするポイントは、ずばり、次の3つです。事業戦略を立案しなければならない方は、ぜひ一度チェックしてみてください。

ポイント①:戦略は論理的かつシンプルか

 実際に戦っていくためには、戦略は誰が見ても判りやすいようにシンプルなものでなければいけません。シンプルとは「省略する」ということではなく、「まとまっている」ことです。例えばAとBとCという事実があるとすると、これらを「まとめてとらえると」Dになる、という考え方がシンプルということです。こういった考え方が出来るようになるには、相当な修練が必要であり、本で勉強してもすぐに実践できるものではありません。何度も何度も人に伝えて試しながら、“伝わる”戦略になっているかどうかを確認していきましょう。

 そして、論理的な明快さと同時に、戦略にはメンバーを実践へとかき立てるものが表されている必要があります。なぜなら、戦略は実践できてこそ意味のあるものだからです。戦略を策定するのに使うエネルギーは大きいだけに、論理的かつシンプルに、そして人が動きやすい言葉にまとめる必要があります。

ポイント②:競合に勝てる仕組みか

 アマゾンのジェフ・ベゾスやデルコンピューターのマイケル・デルのような精緻な戦略をつくれなくても、がっかりすることはありません。 むしろ、これまで戦略なんて組み立てたことのない人たちが、自分達が「勝てる」と考えた「勝つ仕組み」を必死に考えることの方が、実は、戦略実現への早道なのです。競争戦略とは、「勝つ仕組み」を新しく創造することです。ただし、全く新しいものを生み出す必要はありません。今あるものと別のものを組み合わせて、最初は一つで良いから、競合に抜きん出る仕組みを考えていくのです。これが初歩の段階の明快な戦略ストーリーとなります。こうして、市場における自社の強みやポジションを理解できるようになれば、ようやく自然と競合の顔が浮かんでくる組織に変わっていくでしょう。

ポイント③:小さな成功を得られる戦略になっているか

 メンバーで「勝つ仕組み」考えたら、実際に実践してみて、小さな成功体験を得ることが必要です。停滞していた組織に「小さい成功」がもたらされたことを自覚させ、それは立派な戦略であったことを理解できるとメンバーたちは自信を持てるようになります。そして小さな成功を体験したら、矢継ぎ早に勝つ仕組みとしての戦略を組み立てる次の段階に入ってください。その後は以下の図のように循環させていきましょう。この方法をとると、戦略という言葉自体に抵抗がある組織でも、自然と入っていけるはずです。

【小さな成功がもたらす循環】

 

まとめ

 今回のコラムでは、社員が動いてくれる戦略を立てる上で抑えるべきポイントについて説明しました。もし皆さんが、戦略を策定することに時間を割いてしまい、実践にまで至らないという問題があるのであれば、むしろ今あるものを組み合わせた仕組みを作り、集中して限られた期間内に勝とうと意識して行動をした方が、組織に活気が溢れてくるはずです。戦略構築の部分は実践の力がついてきてから、じっくり考えても決して遅くはありません。立派な戦略を創ることも大切ですが、まずは実践することから始めてみてください。

【戦略論に関する参考図書】

マイケル・E・ポーター 『競争の戦略』1995年 ダイヤモンド社

ヘンリー・ミンツバーグ 『戦略サファリ』20012年 東洋経済新聞社

ジェイ・バーニー 『企業戦略論』 2003年 ダイヤモンド社

野中郁次郎 『知識創造企業』 2020年 東洋経済新聞社

楠木健 『ストーリーとしての競争戦略—優れた戦略の条件』  2010年 東洋経済新聞社

沼上幹 『経営戦略の思考法』 2009年 日本経済新聞出版社

  
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