会社が10年後も生き残るためには、環境変化にも強い組織をつくっていかなければなりません。そのためには、「起こってもおかしくない未来」について考え抜く力が必要です。今後会社が直面しうる状況をシナリオベースで幾つか用意し、常日頃からオプションを備えておけば、環境変化にもうまく適応することができます。一点予測で未来を捉えようとするのではなく、「起こり得る未来」について仮説を構築し続けることで、組織能力の進化にもつながっていきます。その組織づくりのために役に立つ考え方が「進化デザイン戦略」なのです。
□こういった方にオススメ
✅「未来への進化に向けて、どのように考えて実践していけばいいかわからない」
✅「環境の変化は察知しているが、現状から脱却し、新しいアクションをなかなか起こせない」
✅「進化を起こそうにも、目先の業務や利益追求に時間と労力を削がれてしまう」
進化デザイン戦略とは
極めて不確実性が高い世界では、ビジネスの未来は必ずしも楽園ではありません。市場シェアの高い企業であっても、現状に満足し進化を怠った結果、新興企業による破壊的イノベーションによってその地位を揺るがされた事例も多く報告されています。そこで、環境の変化に適応し、競争優位を確立するために❝進化をデザインする❞戦略が必要となるのです。企業進化は、「過去からの資源を継続しつつ、新しい資源を獲得するために持続的にアクションを取ること」が必要です。言い換えると、現状の事業を維持しつつ、未来に向けたイノベーション創出にも力を入れるということを意味しています。しかし、現状維持とイノベーション創出は二律背反であり、机上の空論ではないかと疑問に思う鋭い方もいらしゃるでしょう。「進化デザイン戦略」は、この対立する2要素を補完的要素に転換・結合するための考え方であり、タイナミックな変化を助長するものなのです。
進化デザイン戦略の意義
「進化デザイン戦略」は、現在の資源と未来の資源を同時に配分することを重視しています。現状、収益化が成功している企業にとって、未来への資源獲得に向けたアクションは起こしにくいものです。
「業績が良いんだから、余計なことはするな」と現状維持を選択し、リスクや不確実性を嫌うことが多いからです。好業績であることは無論良いことですが、これは過去の積み重ねの結果に過ぎず、未来ではありません。つまり、過去の延長戦上で戦略を策定することが優先され、未来を想定した戦略立案に組織のリソースが十分に割かれないということなのです。過去・現在の課題のみに目を向けた戦略では、急激な環境の変化に対応することはできず、淘汰されてしまうのです。こういった理由で、「現在」と「未来」の双方に向けて組織のリソースを配分することを助長する進化デザイン戦略の考え方が役に立ちます。
進化デザイン戦略 3つの柱
進化デザイン戦略には、中心となる3つの柱が存在します。現在の事業に焦点を置き、継続的な価値・マネー獲得を試みる「既存資源の継続的活用」、不確実な未来に備え、持続的な進化を模索する「新たな資源の創出」、そして相対立するこれら2要素を結合する役目を果たす「進化デザイン戦略基盤」の3つです。この3つの柱が連結し合うことによって、現在と未来に向けた戦略をマネジメントすることが可能となり、組織を進化させていきます。以下、3つの柱を構成する要素について説明していきます。
既存資源の継続的活用
既存の資源を継続することとは、現有の組織のケイパビリティを深く掘り下げる(改善を続ける)行為です。既存資源の継続的活用を実現するにはまず、「現有の制度」をしっかり見直すことが重要になってきます。それぞれの組織には、これまで培ってきた意思決定の方法やルーティン、カルチャーなどがあります。組織の仕事に対するエンゲージメントを向上させるためにどういった制度を設けるのか、あるいは改訂するかを考えることが、継続的に競争優位な組織になるためのキーポイントになってきます。そして、継続的進化においては「オペレーションの改善」も重要な役割を持ちます。これは、組織のルーティンや業務生産性などを向上させることを通じて進化を目指す試みです。日本企業が得意とする“カイゼン“に近いですが、日々の目に見えない小さな改善を積み重ねることで、組織能力が高まります。また、こうした、企業組織が持続的な改善活動を続けるには、「資本効率」が良くなくてはなりません。潤沢な財務状態を持っていなければ、資金調達やステークホルダーとの関係維持が難しくなり、目先の利益追求を迫られることになるからです。最後に重要な要素は、「結果の重視」です。ここまで順調にことが進んでいれば、あとは組織が短期的な結果を重視だけではなく、長期的な結果をどれだけ重視するかについてコンセンサスを得ることが必要です。
新たな資源の創出
新たな資源の創出には、環境の変化をいち早く察知し、それに迅速に対応しながら継続的に組織を進化させることが重要となります。まず、「環境の察知」をするには、理論や推測よりも、自分で見たり聞いたりすることを繰り返しながら変化を感じることができる組織にすることが大切です。そのために、「試行錯誤の実験」が必要なのです。持続的な試行錯誤を繰り返す中で、不確実性に対して感覚を磨くことができるようになります。ただ、これは、資本効率が悪く、マイナス要因と捉えられがちです。しかし、その圧力に対して、試行錯誤を許容できる組織風土をつくることが強く求められるのです。
いったん試行錯誤の実験に踏み入ったならば、「経験の省察」をすることが視野を広げることに役立ちます。失敗だけでなく、経験したことを振り返ることで、意図せぬ発見があったり、新たな情報を認識できるのです。そして、そこで得た発見は「デザイン志向」を通して結合させ、未来のシナリオ創りにつなげていきます。こうして、経験と省察から得た情報を組み合わせ、統合的なシナリオ・プランニングをすることで、自社に合った未来を描き、社会や環境の変化により直感的に反応する組織がつくられていくのです。
進化デザイン戦略基盤
最後に大事なのが、既存と未来を繋げる「進化デザイン戦略基盤」を整えることです。ここではまず、「戦略と哲学」が重要なテーマとなります。多くの企業においては、中期計画などで未来に向けた経営戦略を打ち出していますが、経営環境は常に変化し続けているため、戦略自体を常々省察することが必要です。そのとき、哲学的思考が有効となるのです。それは、変化する環境や来たる未来において、既存の戦略の意義や是非を再考し続けることを意味します。
そもそもの企業の意義を確認できたら、はじめて「分析とデザイン」を行い、分析により過去からつづく現状を認識し、未来への戦略ストーリーをデザインしていきます。デザインとは、デッサンに描くような総合的なものであり、過去、現在、未来を結合させながら全体を描いたり、時には修正したりする行為を指します。ストーリー・ベースで戦略を描くことにより、環境の変化が起きてもフレキシブルに戦略プランの変更に踏み切れるのです。
そして、「短期と中長期」の時間軸を捉えながら、既存事業の継続と新たな資源の創出にどれだけ組織の資源を配分するか、そのバランスを見極めていきます。このとき、ほとんどの企業はどのようにバランスを取っていったらいいのか頭を悩ますことでしょう。中長期的なイノベーション創出に向けて、アクションを起こしていかなければ生き残っていけないと分かってはいるけれども、投資対効果を考えれば今マネーを回収しなければならないというジレンマに直面するのです。自社の資源を見極め、時間軸を3年、5年、7年、10年と区切りながら、その時々、どの程度、ヒト・モノ・カネ・情報をつぎ込むのかを考えていきます。
おそらくその時、効率的な新しい価値を共創するパートナーの存在が重要になってくることでしょう。時間軸を見据えながら、「内製or外部委託」する範囲を決めていきます。企業が生み出す価値を最大化させる為には、自社で内製するプロセスと外部にアウトソーシングするプロセスを効果的に役割分担することが必要不可欠なのです。環境の変化あるいは、戦略ストーリーに合わせて、外部組織と戦略的パートナーシップを築いていくことで、効果的な事業展開をすることが大切となります。
まとめ
このコラムでは、環境の変化に対応し、持続的な成長を可能にするうえで有効な「進化デザイン戦略」の基本の3つの柱について考えてみました。未来を完全に予測することは困難でも、未来をデザインし、そのシナリオに備える組織づくりをしていくことは可能なのです。組織は「試行錯誤の実験とその省察」を繰り返すことで、環境の変化を察知し、また、組織のケイパビリティを修正していくことができます。未来に向けての正解論などはなく、地道かつ持続的な進化を積み重ねることで新たな発見が生まれます。ただ、既存のマネー獲得活動も、進化デザイン戦略には必要不可欠であるので、いかに組織のリソースをバランスよく割り振るかがカギとなってくるでしょう。